本好きのあらすじ解説&感想ブログ

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非行少年が非行を犯す原因と非行を未然に防ぐ学校教育

1.はじめに

 今回は非行少年が非行を犯す原因と、それを未然に防ぐ方法というテーマで話をします。このテーマの参考文献として「宮口幸治さんのケーキの切れない非行少年たち」の内容を交えながら考えていきます。

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

  • 作者:宮口 幸治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/07/12
  • メディア: 新書
 

 はじめに結論から言うと、非行少年が非行をしてしまう多くの原因となっているのは、発達障害や知的障害といった障害であること。また、それを未然に防ぐには、現在の方法では不可能で筆者が考案した「コグトレ」を活用すべきであるということです。

 今回はこの結論を、医療少年院の専属医として様々な非行少年を見てきた筆者の壮絶な経験談をもとに紹介していきます。

 

2.非行少年に見られる11の特徴

 ここでは本書で取り上げられている非行少年の特徴を10個に絞ってお伝えしていく。どの特徴も自分としては想像と違い。衝撃を受けるものばかりであった。是非みなさんにも全てに目を通してもらいたいです。

 

・「非行少年=家庭環境の悪かった悲しい子ども」

 ではない

 皆さんは非行少年についてどんなイメージをもっているでしょうか。ここで言う非行少年は男子も女子も含まれていると思って考えて下さい。おそらく「家庭環境が悪くて」「根っからの悪で暴走族をやっていた」などととイメージする人が多いのではないでしょうか。しかし、多くの非行少年を見てきた筆者は、非行少年の多くは両親に大切にされ、根っから悪い性格をしているわけではないと述べています。

 

・少年院でも「札付きの悪」は「大人しい子」

 筆者が医療少年院に行ったときの話です。当時少年院の中でも、特に問題児で札付きの悪だった1人の男の子を見たそうです。その少年は小柄で大人しそうな表情の無口な少年だったそうです。ドラマや映画のイメージだと、すごい凶暴で食ってかかってくるようなイメージを持ちがちですが、実際はそうではないのです。

 

・多くの非行少年は「僕は優しい。」と答える

 非行少年達は殺人や窃盗、猥褻な行為など様々な罪で捕まっている。どれも立派な犯罪である。ですが、少年のほとんどが「自分は悪くない。」「僕は優しい。」と答えるそうです。

 筆者はある殺人を犯したにも関わらず、自分は優しいと主張する少年に「君はは〇〇して、人が亡くなったけど、それは殺人ですね。それでも君はやさしい人間なの?」と聞いたとき、そこで初めて「あー、やさしくないです」と少年は答えたそうです。少年は大人しく、真面目そうな風貌だったそうですが

善悪の判断ができないのです。

 

・ケーキが三等分できない

 これは本書の名前にもなっている話だが、非行少年の多くが「ケーキを3等分してみなさい。」と指示を出すと、以下のような分け方をするそうだ。本人は同じ大きさに分けたつもりでも、丸いケーキを正しく認知できないため、歪んだ切り方になってしまうのだ。

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・図形を写すことができない

 これは先程説明したら殺人をしても善悪が分からない少年の話です。少年に図形を見せて、下に同じ図を描くテストをした。上の見本と比べると酷く歪んでいることが分りますよね。ただの図形でも、少年にとってはこのように歪んで見えているのです

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 このことから筆者は、図形の見え方が歪んでいる子にとって、自分のやったことが正しいかどうかを判断するのは難しいと述べています。自分も同意で、仮に親から善悪について強く矯正されている子ならある程度判断できると思います。

 しかし、善悪の判断というのはワンパターンではないです。その時々で適切な判断が求められるため、このような認知力のない子達にとって善悪の判断は難しいものなのです。

 

・幼女以外に興味を示さない性非行少年

 性非行を行う少年のほとんどがターゲットを幼女(ここでは小学2年生ぐらいまでを指す。)としているそうです。筆者は性非行を行った少年になぜ大人の女性ではないのか聞くと、「9歳以上の女の子は何を考えているか分からず、興味がない。」と答えたそうです。筆者は、認知力のない少年たちにとって、9歳以上の女の子というのは、何を考えているか分からないため、怖くて興味がもてないと考えています。普通の人なら異性に興味が増していくはずが、認知力のない少年たちはある一定の年齢で興味や関心が止まってしまうというのです。

 

・想像力が弱い

 筆者は「今我慢したらいつかいいことがある」「1ヶ月後の部活の試合や定期試験をがんばる。」「将来〇〇になりたいからがんばろう。」といった未来への想像は非行少年にイメージできないと考えています。理由は非行少年の多くが昨日、今日、明日の3日程度しか時間の概念がないため、継続的な努力ができないためだそうです。いわゆる未来が想像ができないのです。

 努力ができないとどうなるのかというと、成功体験を得られず、自信を持てなくなる。また、自分が努力できないため、相手の努力の価値が分からない。そのため、他人がお金を頑張って貯めた原付を悪びれることもなく盗んでしまうのです。

 

・ストレスを溜めている

 筆者のこれまでの経験や調査から、性非行を行う少年のおよそ95%が小中学校でいじめを受け、ストレスを溜めているという結果が出たそうです。非行の全てがいじめが原因ではないでしょうが、いじめが犯罪を生んでいることは間違い無いでしょう。

 

・融通が効かない

 例えば「お金が必要であるがお金がない」状況になったとする。普通の人はAアルバイトをする、B親族から借りる、C宝くじを買う、D強盗するなどたくさんの選択肢を頭の中で作るでしょう。そして、Dを選択すると今後どうなるか想像できるため、選択肢から外すことができます。

 しかし、頭が硬く、融通の効かない子はDしか選択肢を思いつかなかった場合、Dを実行し続け、犯罪を繰り返すのです。

 

・自己評価が不適

 筆者の出会ってきた非行少年の多くは過度の自信家か自信のない人のどちらかだったそうだ。この現象は認知機能がないため起こる。人間は他者との適切な関わりから自己理解をするため。普通の人間だったら自分の身の程がどれくらいかを模索し、自分に見合った場所や考えに落ち着く。しかし、非行少年は認知の機能が低い為、他の人から受け取った情報を正しく取り入れられず、自己理解が進まないのです。

 

・身体的不器用さをもつ

 非行少年は身体的不器用さをもつ人が多い。例えば、喧嘩で大怪我、サッカーで大量の怪我人を出すなどの問題を起こすなどがあげられる。加減ができないために少年院から出ても傷害罪で再逮捕されたり、不器用なため、仕事で問題を起こして首になってしまう。そのため、学校や職場でいじめの対象になる(いじめや負のループ)。

 また、不器用さは姿勢維持も困難にするため、学習にも影響をあたえる。勉強ができなくて不器用な子どもは、周りの子のいじめの対象になることは避けられない。教師の学級経営でなんとでもなる場合もあるが、同じ教師がずっとサポートすることは教育のシステム上できない。常に非行少年になる要素をもった子は、いじめの恐怖に晒されているのです。

 

3.非行少年を取り巻く厳しい3つの問題

 次は非行少年もしくは、発達障害をもつ子どもたちが直面している家庭環境や学校教育、行政の問題についてまとめたものを紹介していく。

 

・「ほめる教育」と「自尊感情が低い」で片付けてしまう教育

 自分も現場でやりがちなのだが、勉強ができない子に「足はとても早いよね。」といって学習と別の部分を承認してあげたり、「勉強できなくてイライラしたんだね。」と話を聞いて共感し、ストレスを和らげてあげたりすることが現場ではよく見られます。これはクラス全体のことを考えると良いことなのですが、勉強のできない子にとってはその場しのぎにしかならず、本質的な問題の解決にはなっていないのです。知的に障害をもつ児童でも、きちんと学習を身につけさせなければならない。当たり前のことなのですが、現場では目を背けがちな部分だと思います。

 

・非行少年を救えない日本の医療

 筆者によると、公立の精神科病院診療予約が4年待ちだそうです。そんな激務の中で医者にできるのは診断と見立て、投薬に限られていて、具体的な指導計画や指導、経過観察はできないそうです。

 また、通院する子は主に自閉症スペクトラム症かADHDであることが多いそうです。この二つの情緒障害については、投薬治療で多動や不注意といった症状は抑えられます。一方でLDや経度知的障害、境界知能の児童は行動面で迷惑をかけたり、問題はあまり起こさないため、通院してこないそうです。通院したとしても、学習へのストレスで問題行動を起こしたケースばかりで、かなり問題が大きくなってから通院するようです。

 また、カウンセラーについては、子供が発達障害のどれに当てはまるか分類し、教員に伝えることができるのですが、教師側としては具体的な支援方法を教えてくれるわけではないため、教育に生かすのが難しいです。

 以上のことから考えられるのが、LDや知的障害の子は行動面で問題が起きることがなく、病院に連れて行かれる機会が少ないということ。カウンセラーはいたとしても、簡単な障害の区分しかできないため、結局何も対策を立てられないということです。医療の力を必要としているにも関わらず、まともな医療にたどり着けないのです。

 

・ケーキの切れない非行少年には理解できないSSTソーシャルスキルレーニング)

 SSTとは、子どもの社会性を高めるためのトレーニンである。具体的にいうと下のようなものである。

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 楽しく活動に取り組めて、他者の考えを推測したり、自分との相違点を考えたりできるトレーニングだ。近年小学校の現場でも扱われ、話題となっている。実際に効果があったと報告する学校も聞いている。

 しかし、SST認知行動療法に基づいたトレーニングであり、認知に問題がある子には理解できないのだ。例えば、上の例にある仲間で集まれをやった際、血液型と生まれた月であれば参加できるだろう。だが、星座と言われたときに「自分の星座は〇〇座だ。」と認知することができない子も中にはいるだろう。また、2つにアウトに関しては、ルールが認知できず、身体的不器用のためまともに参加することができない児童は必ず存在するだろう。そうなると周りの児童からしたらその子は疎ましい存在となり、社会性が育つどころがコミュニケーションに対して消極的になってしまうだろう。以上のことから考えると、SST一番身につけて欲しい子には届かないトレーニンなんです。

 そもそも、SST認知行動療法に基づいており、(簡単に言うと子どもに思考力がある前提で考案されたトレーニングである。)子どもに実施する際は、課題を認知する力がクラスの児童全てにあるかどうかを見極めないといけない。

4.最後に

 皆さん、非行少年が非行を犯す原因が分かったでしょうか。非行を未然に防ぐためには、非行少年と知的障害が、深く関わるため医療機関や教員の力が必要です。ですが「具体的な支援方法が分からない。」「個別対応には限界がある。」と感じる方が多いと思います。自分ももちろんそう思っています。

 そこで本書の筆者が提案している「コグトレ」と言うものを紹介したいと思います。これは認知力をつけるためのトレーニングであり、どの児童にも取り組むことが可能になっています。コグトレを行うことで、今までのトレーニングでは誰も実施してこなかった認知力をつけるトレーニングができるのだ。早速例題をいくつか紹介しよう。

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 このようにコグトレは低学年でも楽しく、考えながら取り組むことのできるものだ。一見図形遊びのように見えるが、よく考えてみると頭の中で図形を反転させたり、上の図形と同じものを再現したりと認知機能を鍛えられる内容になっているんです。

 

CD付 コグトレ みる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング

CD付 コグトレ みる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング

  • 作者:宮口 幸治
  • 出版社/メーカー: 三輪書店
  • 発売日: 2015/03/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
CD付 やさしいコグトレ 認知機能強化トレーニング

CD付 やさしいコグトレ 認知機能強化トレーニング

  • 作者:宮口 幸治
  • 出版社/メーカー: 三輪書店
  • 発売日: 2018/02/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 では、ここからは実際に教育現場でコグトレは実践できるのか考えてみましょう。結論はカリキュラムマネジメントをすれば可能であると言うことです。特に認知機能を鍛える時期として低学年がふさわしいでしょう。

 低学年は高学年に比べて行事や委員会などが少なく、学習内容としても理科や社会といった科目がないため、取り入れる余裕があると言える。低学年の内に認知機能を鍛えておけば、計算や作文、漢字の読み書きやコミュニケーションの素地ができる。そうすれば、中学年や高学年になっても勉強でつまずいたり、コミュニケーションが取れずにいじめの対象になったりする数は減るでしょう。(低学年を担任したことのない自分が言うのは説得力がないが、担任した時は是非実践してみようと思います。)

 皆さんは非行少年の非行を犯す原因と未然に防ぐ方法を考えてどう思ったでしょうか。一番大切なのは大人1人1人がこの問題について知り、考えることだと思います。子供を持つ方でしたら夫婦で話し合ったり、教員の方だったら職場で話題に上げてみたりしていただけるとよりより未来になるのではないかと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

 

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

  • 作者:宮口 幸治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/07/12
  • メディア: 新書