センター試験の現代文の出典一覧から分かること
1.はじめに
こんにちは。今日はセンター試験の現代文に出てくる物語文の一覧を紹介していきます。
紹介するきっかけは、佐賀新聞の社説でセンター試験の現代文について書かれたものがあったからです。社説を一部を抜粋すると、
「受験生にとって、人生を左右するかもしれない大学入試。出題文の感慨に浸るような余裕はなかったとは思うが、入試での出合いをきっかけに文学への興味が深まればいい。」
とあります。そういえば自分も解くことに必死で、文章そのものを味わったことないなと思い、自分が丁度試験を受けた10年前から遡って調べてみました。
とりあえず各作品のあらすじを紹介していきます。是非見ていってください。また、10年分の作品を比較して、分かったことがあったため、最後にお伝えしたいと思います。ここは自分がなんとなく思ったことなので、読みとばしても構いません。とにかく「面白そうだな、読んでみたい」と思う作品がいっぱいです。時間があったら作品紹介だけでも読んでみてください。
2.作品一覧
2010年 中沢けい「楽隊のうさぎ」
自分は試験でこれを読んだはずなのに、全く覚えていませんでした。笑
本作は引っ込み思案な中学生の克久が、ブラスバンド部に入部し、戸惑いながらも吹奏楽にのめり込み、全国大会を目指す物語です。読みやすい文体で、特に吹奏楽部だった人にとっては、当時を思い出すような内容で、のめり込めるのではないかなと思います。
2011年 加藤幸子「海辺暮らし」
作品が発表されたのは1981年。主人公のお治婆さんは、海辺で駄菓子屋を営んでいて、愛猫のルルととの暮らしを物語にしています。このお治婆さんの変人奇人ぶりが、常軌を逸しているのが特徴です。明くる日は自殺志願者に死ねる場所を提供したり、明くる日は知っていて汚染されたアサリを食べ、視野狭窄になったりするんです。
2012年 井伏鱒二「玉虫を見る」
主人公が少年期、学生時代、青年期を経て現在に至るまで、なぜか不幸なことが起こる度に、自分の傍らにはいつも玉虫がいるという話。井伏鱒二といえば「山椒魚」で有名ですが、この話も結構面白いんですよね。
2013年 牧野信一「地球儀」
祖父の17回忌法要で、孫の純一が小田原に帰省したとき。久方ぶりの母親との会話から、祖父が買い求めた「地球儀」を見ながら、純一の父親が渡米したままだった頃の記憶が甦ってくる話。青空文庫で無料で読めますので、ぜひ読んでみてください。
2014年 岡本かの子「快走」
女学校在学中ランニングの選手だった少女、道子が、走る喜びを思い出して家族に隠れて毎晩ランニングをするという話。親に嘘をついて毎晩堤防で走る道子が、日常から解放される描写は、読んでいてとても爽快な気持ちになります。
2015年 小池昌代「石を愛でる人」
こいけさんという女性詩人の一人称で語られる。
石を愛でる人、山形さんとの交流が、「わたし」自身の石にまつわる思い出や思いを混ぜて描かれています。
2016年 佐多稲子「三等車」
物語は主人公「私」が鹿児島行きの急行列車に乗り込むところから始まる。混雑する列車の中、三等車に一つだけ残っていた座席を闇取引によって購入した「私」は、そこである一家に出会うという話。プロレタリア文学作品であり、当時の貧しい日本の暮らしぶりが分かる作品です。
2017年 野上弥生子「秋の1日」
この物語は、主人公の直子が病床から快復し、夫に手提げ籠をプレゼントされて以来ずっと楽しみにしていたピクニックに子供と一緒に出かけようとするところから始まります。秋の日の午後が気持ちよく描かれていて読んでいて気持の良い話です。
2018年 井上荒野「キュウリいろいろ」
この物語は、どこにでもあるような総菜屋さんの、どこにでもいるような女性たちの、ありふれた日常を描いた話。登場人物のそれぞれに辛い過去や事情があるのだが、それを跳ね返しながら笑って怒って恋して食べて生きるといった話です。
2019年 上林暁「花の精」
これは私小説であり、作者とその妹がまず登場し、会話の掛け合いから始まります。戦時中の話で、精神病になった妻と庭の刈り取られた家の庭に生えていた月見草を主人公が重ねて見る話です。
2020年 原民喜「翳」
「翳」は「かげ」と読みます。原さんは戦争をテーマにする文学者です。主な内容は、戦時下の状況が大きく影響していて、病妻と魚屋の若者の死に対する「私」の内面が多く語られているものになっています。
3.作品を比べて分かったこと
作品を調べて比べてみたところ、1つ分かったことがある。それは特徴的な主要人物がいるということです。
例えば「花の精」では月見草と玉を重ねる主人公。「石を愛でる人」は石を愛でてるんですから、すごい個性的ですね。「快走」については若い年代や主人公ではありますが、仕事柄走ることができずに、走ることに背徳感や未知への興奮を味わう道子は特徴的ではないでしょうか。
なぜこのような共感がしづらい主人公の物語ばかりなんだろう。そう考えて見ると問題が作りやすいからかなと思いました。なぜかというと、共感しづらい主人公のため、感覚で心情が理解できないんです。
例えば、同い年くらいの主人公や、自分と同じ時代を生きている人であれば多少感覚で心情を理解できるでしょう。本文をいい加減に読んでも問題に答えられるのです。
ですが主人公の個性や特徴が強いので、なんとなくじゃ理解できません。そんな主人公の心情理解をどのようにすれば良いか。それは本文をもとに論理的に考えることです。まさにこれは現代文のテストで問いたいことだと思います。「いや〜出題者は作品からよく考えているな。」そう改めて思いました。今回は、センター試験で出題された物語文について紹介してきました。是非皆さんも気になったものがあれば読んでみてください。ありがとうございました。